無意識の恋の駆け引き。

あなたの本音が聞きたい────────────。

キミに嫌われることだけはしたくない────────────。





これがキミとのラブゲーム。






天気も良く、うららかな日曜日の午後。
本当なら、外に出て思いっきり遊びたいところだけど、今日はそうも行かない。
何故なら、明日から地獄のテスト週間が始まるからだ。

一人で図書館に行っても良かったのだけれど、
長太郎が「俺の家で一緒に勉強しませんか?」なんて誘うものだから、
その場で二つ返事でOKしてしまった。
だって・・・あまりにも嬉しそうだったから。



付き合い始めたのが最近だったし、私を堂々と家に誘える事がその顔の原因だろうけど、
嬉しさのあまり、2年と3年じゃ範囲が違うってこと、忘れてないよね?

まあ、長太郎のことだから、私に聞かなくても学校のテストくらい
楽にクリアしてしまうのだろうけど。

それにテストの前日の午後なんて範囲の最終チェックだけだし、隣に誰がいても同じかな。



ちょっと冷めた考えなんて思われるかもしれないけれど、
3年にとって定期テストというものは重要で。
いくらエスカレータ式の氷帝とは言っても、あまりに悪い成績というのは進学に響いてしまう。
それにクラス分けだって・・・・・・おっと。
余計なことを考えている場合じゃなかった。
今すべきは、目の前にある問題集だ。


・・・・・・とはいえ、隣にいる人物が全く気にならないわけではなく。


長太郎・・・何やら真剣に参考書読んでるなあ。
もっと話し掛けられて、勉強がはかどらないと思ったから
明日の範囲まできっちり終わらせてきたのに・・・・・・

何かこれじゃ、つまらない。




ふと、私の視線に気づいたらしく、長太郎がこっちを向いて言った。
「何か分からない問題でもありました?」

「あ、ううん。平気。何でもないよ」

「そうですか。でも分からないところがあったら、遠慮なく聞いてください。
すぐに俺が跡部さんに電話で聞きますから」

「え!?そんなことして大丈夫なの?」

「はい。先輩のためならお安い御用です!」

長太郎が力強くにっこり笑う。
なるほど、私を誘ったときの笑顔の要因は、ここにもあったか。




と、その時──────

ピ──ンポ───ン・・・



「あ、そういえば母さんが何か荷物が届くって言ってたっけ。
すみません、ちょっと席外します」

そう言って階下に降りていく長太郎。
まったく、こんな時までなんて礼儀正しいんだか。

あーあ、せっかく2人っきりなのに、なんか面白くない・・・

座ったまま、後ろ向きに倒れた。
ボフッと空気の逃げる音がして長太郎のベッドに寄りかかる。


あ!良い事思いついた!!






***






届いた荷物は親戚の叔父さんからだった。
少し重さのあるダンボールをリビンクの床にゆっくりと降ろす。

そして、せっかく下に来たのだからと、紅茶のおかわり用のポットを持って上に戻った。



「遅くなって、すみませ・・・」

先輩がさっきまでいて、今もいるであろうその位置に、先輩はいなかった。
代わりに目に飛び込んできたのは、俺のベッドを気持ち良さそうに占領している先輩。

俺も席を立ったし、ちょっと休憩〜なんて言って横になったのだろうけど・・・。
こんな気持ちの良い休日の午後。
ぽかぽかしたこの陽気に先輩が勝てるはずありませんよね。


先輩が寝ているのに、俺だけ勉強するなんてナンセンス。
さっきだって先輩の勉強の邪魔をしないように、話し掛けるのずっと我慢していたんですよ?

持ってきたポットを音を立てないように静かに自分の机の上に置いて、先輩に近づく。

一定のリズムで寝息を立てる先輩。

・・・・・・寝顔、初めて見た・・・。
・・・・・・・・・可愛い。

思わず手が出そうになって、寸前のところで我に返る。

危ない、危ない。
先輩に何しようとしてんだよ、俺!?

でも、この顔は反則だよな。

・・・・・・・・・・・・キス、したい。

やめとけよ、という理性を主張する俺と、
彼氏なんだからちょっとくらい平気だよ、という欲望に忠実な俺が、
激しくせめぎ合っている。

しかし、この寝顔を見た時点で既に消えかかっていた理性の俺は
そのあとの先輩のたった一言で、見事に消えてさってしまった。


「・・・んっ」

ちょっと体勢を変えたとき発した無意識な声。
ほんの一瞬だったけれど、とても色っぽい。


すみません、先輩。
起こさないようにそっとしますから、許してください。


顔を近づけて、目をつむる。
あと少しというところで、ハッとある事に気づいた。




今、先輩に何かしたら・・・・・・

「キャ────!!長太郎のバカ!
ヘンタイ!もう帰る!!」

・・・といった展開になるのでは?
先輩ならありうるぞ。

以前、偶然にも寝顔を目撃してしまった忍足先輩が
「サイッテ───!!ヘンタイ!ばかばか!エッチ!!」
とか言われていたような・・・。


あの時は先輩の寝顔を見られて、ちょっと羨ましいな、なんて思ったけれど
実際、先輩に言われるのはショックだろうな。

顔を赤くした先輩から「ヘンタイ!!」
それはそれで、可愛いとは思うけれど・・・・・・それだけは嫌だ。
先輩に嫌われることだけはしたくない!!


というか、そもそも2人っきりの家の中、男の部屋で寝ちゃうってどうなんですか!?
俺は彼氏の前に、男だと思われていないのでしょうか!?

それならば、俺だって男だと教えてあげますよ!



・・・・・・って、俺にはやっぱりできません。

先輩に嫌われることもしたくないけれど、
悲しませることは、もっとしたくありません。

先輩には、いつでも笑っていてほしいから・・・・・・







気が付いたら、自分の片手で先輩の頬に触れていた。

少し指を動かすと、髪の毛がさらっと落ちた。


愛しい


そう、心の底から思った。






俺はきっと意外なくらい穏やかな目をしていたんだと思う。
ふいに目をぱちっと開けた先輩は、瞳をさらに大きくして言った。

「長太郎!?そんな悟ったような目して、どうしたの?」

起き抜けにぺらぺらと話し始める先輩に、あっけにとられる俺。

「もしかして寝たふりしてたのバレて、呆れてる?
そんなつもりじゃなかったの。ほんのいたずら心だったの。ごめん・・・」

本当にすまなそうに謝る先輩。

「さっきの寝たふりだったんですか?」

「え?もしやバレてなかった・・・?」

互いに顔を見合わせて、驚きあう俺たち。

「だって先輩、寝息立てて・・・」

「ああ、あれは演技。女は皆、女優なのよ!」

じょ、女優って・・・。
俺、正直全然気づきませんでしたよ。

「それよりも!どうして何もしなかったの?」

「え・・・?」

「休みの日に2人っきり。しかも彼女が自分のベッドでお休み中。
なのに、何かするかと思えば、ほっぺた撫でるだけ・・・。
やっぱり、私・・・魅力ない?」

「ちょっ!やっぱりって・・・そんなことないです!」

「だったらね・・・・・・こういう時は、キスくらいしたっていいんだよ?」


さっきまで俺が触れていたその頬を、ほんのりピンク色にして先輩がうつむく。
その頬にさっきと同じように、今度は両手で触れて。

「本当は、こうしようと思ってたところなんです」



そっと近づいて、今度こそ────────────。








これがキミとのラブゲーム。










Fin.









甘々のつもりが、ギャグになり、また戻り・・・微妙な話になりました。
始めはヒロイン視点、後半は長太郎視点になってます。
切り替えの部分でちょっと悩んだのですが、最終的に宅配便のところにしました。
本当はもう少しあとにして、ヒロインが心の中で「長太郎、何するかな?(ドキドキワクワク)」
といった場面を入れる予定でした。が、カットされました(笑)
無くても話が進みそうだったので。

もとから考えていた「恋する眠り姫」シリーズの第一作、
そして長太郎夢オンリー主催企画「一話入魂!」の作品としてここに執筆いたします。

2006,9,20 written by えびび丸