優しく流れるその音色

まるで君のようなその音色

















やさしいピアノの音色















ここ最近。

昼休みになると、音楽室からピアノの音が聞こえてくる。

近いうちに音楽祭があるから、誰かが練習しているの。

今まで

何十、何百もの演奏を聴いてきたけど、

この人が弾くピアノほど優しい音色には出会っていなかった。

いったい誰?

こんなにも優しい音色を出せるあなたは誰?

きっと きっと

とても心が優しい人なんでしょうね。

そう、例えば

長太郎くんのような。































「う〜ん・・・なかなか難しいな、この曲。」



ぽつりと呟く俺。

音楽祭で、ピアノの伴奏を引き受けた。

楽しそうだなっていうのはあったけど、主な理由は、



さんにいい所を見せたいけどな・・・」



いつだったか

同じクラスの気になる人。

さんが



「私ね、昼休みになると聞こえてくるピアノの音色、好きなんだぁ。」



と、友達に言っていたのを聞いた。

幸運なことに、そのピアノを弾いていたのは俺で。

心の中で、喜びに浸った。

でも

でもまだ

俺の気持ちは さんに伝わらないまま。

音楽祭で上手く弾けたら、話すきっかけが見つかるかもしれない。

そんな淡い期待を、音に乗せる。

君まで届け、この気持ち。































放課後。

俺はいつものようにテニスコートで部活を始める。

いつものように準備して、

いつものように練習して。

そして今日はいつもと違う事が



「あ・・・この曲・・・・・・」



音楽室からは、いつも俺が練習しているあの曲が流れてきた。

いったい誰だろう?



「・・・オイ、長太郎?大丈夫か?」

「・・・あ!スイマセン、宍戸先輩!」

「なんだ、ボーっとして。何かあったのか?」

「いえ!ただ・・・このピアノに聞き入っちゃって・・・」

「あ?・・・あぁ。なんつうか、たどたどしいな。」

「えぇ。でも、優しい感じがして、俺好きです。この音色。」

「ふぅん。オラ、練習再開すっぞ。」

「ハ、ハイ!」



こんなにも優しい音色を出せる君は誰?

きっと きっと

心が優しい人なんだろうね。

そう、例えば

さんのような。































「うーん、やっぱり無理があったかな・・・?」



音楽室で、昼休みの曲を弾いてみた。

毎日毎日聞いていたから、少しは弾けるようになっちゃった。

でもやっぱり

あの人みたいに弾く事はできないね。




ふと窓の外を見れば、テニスコートが視界に広がる。

あぁそうか。

ここはテニスコートに一番近い音楽室だったね。

長太郎くんはいるかな?

まだそんなに上手ではないけれど、あなたのために弾こうかな。

練習頑張ってね

怪我しないでね

ホントは大好きだよ

あなたまで届け、この気持ち。































誰が決めたわけでもないけれど

昼休みは長太郎が

放課後は

お互いを想って弾くようになった。

どちらも優しい音色で。

いつか届けこの気持ち、という願いを乗せて。































音楽祭当日。

私は幸運にも、最前列の席を取ることに成功。

これで、あのピアノの人を見つけることができるね。

少しの期待と少しの不安。

その気持ちはいつも隣り合わせ。















音楽祭当日。

ついに来た本番に、俺は緊張していた。

上手くいけば、 さんと話せるかもしれない。

少しの期待と少しの不安。

その気持ちはいつも隣合わせ。































なかなかあの曲を弾く人がでてこない。

残り少しなのに、いったい誰?



・・・あ、次は長太郎くん。

何の曲弾くのかな?

絶対緊張してるよね。

頑張って

あなたの心のままの、やさしい音色を聴かせてね。










ついに本番だ。

この日のために練習してきたんだ、大丈夫。

心をこめて弾きます。

さん、聴いていてくださいね。

俺の、精一杯の想いを。































あ・・・・・・・・・

この曲・・・・・・

・・・くすっ

長太郎くんらしいよ、やっぱり。

こんなにやさしい音色を出せるのは、あなただけだね。

ホント、大好き。































「はぁ〜っ!!緊張しました〜っ!」

「よっ、長太郎お疲れ!なかなか上手かったぜ!っつても、俺は上手い下手はよく分かんねぇんだけどよ。」

「宍戸先輩!」

「なんだお前、テニスではしねぇような顔しやがって!」

「ははは、それはそうですよ。何ていうか、ジャンルが違いますから・・・」



「長太郎くん。」



「・・・!? さんっ!?」

「じゃ、長太郎。先に部活行ってるからな。」

「は、はい!」

「跡部には上手く言っておくから、急がなくていいぞー。」

「あ・・・ありがとうございますっ!」































「ごめんね?お話中だった?」

「え、いや!大丈夫・・・」

「ならよかった。どうしても長太郎くんと話したくて。」

「俺も、 さんと話したいなって思ってた。」

「そうなの?それじゃあ、丁度よかった。」



ふわりと笑う さんはとても可愛くて



「あのね、今日長太郎くん、ピアノ弾いてたでしょ?」

「うん。」

「昼休みにいつも聞こえてきて、凄く好きだったの。その音色が。」

「あ、ありがとう・・・」

「でね、とっても優しい音だったから、きっと心が優しい人なんだろうなって思ってたの。」



君の事を想って弾いていたんだ

届いていたんだね



「もしかしたら、長太郎くんみたいな人かなって思ってたら、本当にそうだからビックリしちゃったんだ」

「俺さっ・・・!」



今なら言える

君に届いたこの気持ち



「いつもいつも、 さんの事想って弾いてたんだ。」

「・・・う、うん。」

「いつだったか、 さんが昼休みに聞こえてくる音色が好きって聞いて、凄く嬉しくて。」



こんなにも



「俺は、 さんのことが好きなんだって気付いた。」

「・・・ありがとう・・・」

「これからも、君のためにピアノを弾くから」



俺の音色を



「よかたら、ずっと隣で聴いててほしいんだ。」



その優しい笑顔と一緒に










「うん」




















やさしいピアノの音色

きっと二人は

いつまでも

























end

























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:あとがき:

鳳長太郎ユメ企画「一話入魂!」参加物です。

初めて長太郎を書きました!

いや、意外に難しかったです、彼(汗)

好きなんですよ?好きなんですけど!!

好きと得意は違うんです!!(力説)

でも、いい経験になりましたv

07.01.05.sakura,m

背景:空色地図さまよりお借りしました。